俺のソース

新聞などに取り上げられた科学ニュースのソースとなった論文を解説少なめで紹介します。 @OrenoReSource で再放送しています

科学報道のダメ記事 of the year (2014)

 このブログでは新聞、テレビなどのメディアに取り上げられた科学論文のソースを探し、一次資料(原著)リンクを提示しています。なぜそんなことしているかは以下のリンクをご覧ください。


 

 2014年はSTAP細胞捏造事件があったため、報道各社の科学ニュースに対する力量の違いが露わになりました。科学部はダメ社員の島流し先なのか?とさえ思わせる記事も多く見られました。

 

 今回のエントリは注目を集めたいがために「ダメ記事」と下品なタイトルをつけましたが、2014年に報道された科学論文に関する記事のうち質が劣ると私が考えるものを記録しておきたいと思います。見出しが不適切なものと結論を曲解しているものが大半です。記録する動機としては科学ニュースの現状に対する腹立たしさがあります。まず原著をあたり、そして理解してから報道してほしいということです。大学側のプレスリリースを鵜呑みにするだけではいかんのです。さらに科学ニュースの読者が情報のソースにあたれるよう原著にリンクを貼ることを私は求めます。

 

1. その前に

 せっかく記事をネット掲載しているのに、しばらくするとその記事を削除してしまう報道機関があります。新聞協会が「教育に新聞を」などと謳っているのに知の蓄積をせず検索をさせないのは自己矛盾のようにも思います。新聞社も営利企業でありコストの問題もわかりますが、最初からパーマネントリンクを付与し一定期間が過ぎたら検索や記事全体の閲覧を有料にするなどして対応できるのではないでしょうか。

 

2014年末の時点で、少なくとも半年経つと記事を削除するのは以下の各社です(俺のソース調べ)

    読売新聞、毎日新聞Yahoo!ニュース、時事ドットコム

    NHK オンライン、ナショナルジオグラフィック(サイト移転のため?)

 

一方、リンクを半年以上残していることが確認できたのは以下の各社です。 

    朝日新聞日刊工業新聞京都新聞財経新聞産経新聞

    日経新聞愛媛新聞神戸新聞、AFP、QLifePro、WIERED.jp

  

これらの報道各社が記事を削除しないのは評価しましょう。あとは原著論文へのリンクを貼ってくれたらいいのですけれど。

 

2.アカデミックのプレスリリースを評価する

 国内で報道される科学記事のほとんどはアカデミック側のプレスリリースが元になっています。報道側が自ら新着論文のなかからピックアップして報道してくれるなどということはないと思っていいでしょう。そのプレリリースも形式は様々です。まるで文科省に対してアウトリーチ活動をきちんとしていますよと言うアリバイとして簡単な説明だけを載せているところもある一方で、きちんと掲載雑誌、論文タイトルを明記し原著へのリンクを貼り万一のために論文のDOI(雑誌のDOIではなく)も記載してくれるところもあります。リンクが貼ってあれば原著を読み議論し、場合によっては論文に引用してくれることもあるので著者にとってもメリットがあることですから大学広報などはプレスリリースの体裁をよく議論すべきです。

 

この1年間、私が見たところでは原著論文へのリンクを張っている機関

     岡山大、京大、JST、基生研、東京都医学総合研究所、

     名古屋市立大、遺伝研

です。他に部局として京大・霊長類研のほか東大・農、理研BRCもリンクを貼ってくれますが本体の東大、理研はリンクなしです。

 

一応、原著論文にリンクを貼らない機関の名前も挙げておきます。

     CiRA、理研、北大、東北大、東大、阪大、九大、名大、慶応大、

     筑波大、東京理科大学麻布大学、順天大、愛媛大学遺伝研

     東京医科歯科大、東工大放射線医学総合研究所

      (訂正:遺伝研は最近はURLやDOIが判明した時点でリンクを貼って

      いるようです。)

 

 これらの機関の広報は怠慢です。

 広報関連でもうひとつ言っておきましょうか。プレスリリースの最後に連絡先を載せるようにしていますね。場合によってはコレスポ相当の先生の連絡先が3-4人並び、さらに広報担当の連絡先があったりします。これはだれに連絡・問い合わせをしていいのかわかりにくいですし、たとえば論文がアトピーやがん、不妊やアレルギー、放射線など一般市民の関心のある内容だとマスコミや一般人からの質問が殺到することになります。その対応は研究者の時間を著しく奪うことになります。STAP捏造事件では2月1日の時点で小保方がメール対応できない状態になりましたよね?広報の連絡先だけを書き、広報がさばくべきではないでしょうか?

 

3. ダメ記事ワースト10

 19個のダメ記事がありますが、ここでは10個を挙げておきます。長くなるので残りの9個は別エントリにします。俺のソースのツイート形式についてですが、一行目が元々の記事タイトル、続いて記事リンク、独自につけた1行解説、出典雑誌名、原著リンクとなっています。

 

 

 この記事、Yahoo!ニュースにも転載されて話題となりました。胎児期に比べて出生後に脂肪酸代謝に関連する遺伝子の発現量が上昇するきっかけとしてミルクに含まれる脂質が関与している、というマウスでの話ですがこのタイトルでは母乳が良くて粉ミルクは良くない、というように取られかねません。母乳育児ができなくて悩んでいる方も多いなかでそういったことに思い至らない記者の能力を憂います。論文自体は、PPARaの脱メチル化の話です。医科歯科大学のプレスリリースでも「母乳」とあるので記者だけを責めるのは酷かもしれませんが。

 

 

 この記事は問題点がいくつもありまして....問題がありすぎて、論文の中で当たり障りがなく面白そうな差異を私は解説につけました(小1-3では男児のほうが苦味がわからない子が多い)官能テストというのは主観で答えるしかなく非常に難しいものであり(MRIなどを使えば別ですけど)、大人でも五味テストは正答するのは難しいものだそうです。それを小学校低学年にやらせてどれだけ正確な結果がえられるものか、ということが一点。次に、この論文はoral health status = 口の中の健康状態(虫歯があるか、ドライマウスかどうかなど)と味覚の関連を調べたものです。つまり現代の子供は以前と比べて味覚に異常があるということを言うための調査ではありません。そう言いたいのであれば現代の大人や、30年前の子供に同じ試験を施した結果をもって、30%の酸味/苦味の不認識が集団として正しいのか異常なのかの議論も必要ですよね。さらに、この科学ニュースの報道はNHK(たしかニュース9)でなされたんですが(NHKオンラインのサイトはすでにリンク切れ。NHKかぶんブログのエントリはあります)、埼玉の小学校での調査の様子がドキュメント形式で密着取材されていました。そして、口の中の健康状態と味覚の関連についての論文であるにもかかわらず、味覚異常にたいしてジャンクフードや味の濃い食事がさも原因であったかのように報道していました。結論ありきのニュースにしたいがために論文を利用したか、論文著者も承知でその一翼を担ったのだろうかと私は思いました。

知り合いの研究者がこの報道に対する意見を表明されていますが、私も同意見です。


深尾 友美 - 子供を預かる保護者さん等の心配の種にならなきゃいいなぁと思った報道がありました。仕事で食育をやってきた... | Facebook

 

 

 5W1Hのうちいくつもが欠けているので意味がわからない見出しになっています。意味不明すぎて植物や受精に興味がある人が記事を読む可能性を失っているのではないでしょうか。

 

 

 受精卵のなんのメカニズムがわかったのかわかりません。字数制限があるのでしょうが、受精卵分裂メカニズムとし、九大研究グループではなく九大と表記するだけのことがなぜできないのでしょう。

 

 

陸上植物で花成誘導に関わるGIGANTIA-FKF1複合体のオルソログが花を付けないコケにも存在し、日長を感じて核相の転換を制御するという話なんですが、なんで開花する仕組みを解明という見出しになるのか。見出しだけじゃなく記事もダメで、「何と」相同性を示す遺伝子なのかも示してありません。

 

 

 植物には雌雄同株と異株(別個体)のものがあり、たとえば雌雄異体のホップやイチョウ、パパイヤやナツメヤシはそれぞれ違う機構でオスとメス(つまり雄花や雌花など)が形成されると考えられています。哺乳類ではSRY、カエルのDM-W、メダカのDMY、カイコのpiRNAのようにそれぞれ違うものがあるとお考えください。カキ(柿)も大抵は雌雄同株ですが、マガキは雌雄異株であり、大きさなどで見分けが付く性染色体(X, Y)があることを踏まえて、そのY染色体上のOGIから転写されたsmall RNAが性決定に働くという論文です。ので、「植物の雌雄決定因子を特定」と大きすぎる見出しにするのはいかがかと思います。

 

 βカテニンの特定のアミノ酸の変異により生殖器官に限局した形態形成異常が引き起こされるという話を、センセーショナルに不妊という言葉で表現するのはいかがなものでしょう。

 

 この見出しはさっぱりわかりませんね。マスト細胞のがんでは変異によりあるタンパク質が細胞小器官に蓄積することが原因、とでもすればよかったのに。

 

 

 筋肉と脂肪が同じ間葉系の幹細胞からできるという前提もなしに、なんだかよくわからない不良品について言及していることが問題です。論文の原題が「Antagonism between the Master Regulators of Differentiation Ensures the Discreteness and Robustness of Cell Fates」ですし、筋肉と脂肪の中間的な細胞はなぜできないのか?としておけばよかったと思います。

 

 

 Xistのプロモーター領域のヒストンからメチル基が外れるという話を「特定の物質」と表現されても.....受精時のX染色体上の重要遺伝子の発現の制御の仕組みが判明、制御不全だと着床維持できず、くらいで良かったのではないでしょうか?

 

 

こちらにあと9個ダメ記事がありますので、ご興味あればどうぞ。

 


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